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品質検査データ改ざんに見る課題

2017/12/26

海外の分析に見る「日本企業の不祥事が頻発する」理由

データ改ざん

某社の検査データ改ざん問題をはじめ、このところ日本メーカーの品質管理やコンプライアンスを巡るスキャンダルが相次いでいます。日本経済を支えてきたビッグネームの不祥事が次々と報じられる中、海外メディアの多くが今、日本企業の構造的な問題を指摘しています。

一例として、ロイター通信の記事(https://uk.reuters.com/article/uk-kobe-steel-scandal-quality-analysis/kobe-steel-scandal-latest-to-expose-made-in-japan-fault-lines-idUKKBN1CI25P)によれば、
  • かつて、日本メーカーは「系列」という独特の仕組みに支えられ、収益と品質を維持してきた。
  • しかし、「国内市場の縮小と国際競争の激化に苦しむ中、系列に頼っていた製造業者は現代のコンプライアンス・スタンダードを満たせなくなった」
  • 系列企業間の取引は、仲間内の緊密さに基づいた信頼をベースにしているが、グローバル・スタンダードの市場原理や国際的な競争が広がる中で、日本メーカーは、もはや「系列」の殻に守られることはなく、「価格競争と顧客ベースを拡大することを強いられている」

としています。

背景に垣間見る過剰な品質要求

日系の素材メーカーが世界市場で存在感を示せてきた大きな要因として自動車、エレクトロニクスなどの顧客企業が、素材企業に対し高い品質とサービスを要求してきたことが挙げられます。素材企業は、顧客であるセットメーカーや部品メーカーに鍛えられ、高スペックな特殊素材の技術を磨いてきたとされます。
日本のものづくりは、一般的に川上を担う素材メーカーから川中の部品メーカー、そして川下のセットメーカーへと、サプライチェーン全体で高度な擦り合わせ・作り込みを行うことで高い競争力を保ってきたとされています。しかしながら実際にはセットメーカーは素材メーカーに一方的にスペックを提示し、なぜ、そのスペックが必要なのかを開示しないケースも少なくないといわれます。

実際のニーズに対して、過剰に高い品質の素材が要求されていることも多いようです。ロイターの指摘にあるように、素材企業がグローバルに事業を拡大し、日系以外の顧客との取引を増やすなかで、素材メーカーが完成品のニーズを把握し、必要十分であればいい品質実現のための擦り合わせや作りこみを重ねることで結果的に顧客は、コストダウンや安定供給などのメリットを享受できるという実利を重視する欧米系顧客との取引の違いも指摘されています。

品質基準ルールの議論

一連の品質データ改ざん行為は顧客企業を欺く行為であり、許される行為でないのは言うまでもありません。しかし一方で、某社のケースで言えばこの不正行為、どうやら長期間にわたり組織犯罪のように続いていたようですが、注目すべきは、その間、品質偽装が原因と思われる事故が-今時点ではありますが-全く起きていない、という事です。
これらの一連の実態を背景として「品質に問題がないのなら、そもそも今の品質基準自体が実は過剰なのではないか?」という議論をする時期がきたとする向きもあります。 かつて日本の経済成長を牽引してきたのは「品質の高さ」を武器にした高度なすり合わせ技術と品質基準を打ち立てた製造業であったのは紛れもない事実でありましょう。しかしながら現在においては、経済成長率では完全にアジア各国に遠く及ばず、趨勢は明らかです。そういう状況の変化の中で、かつての日本の製品品質は商品の優秀さの象徴でしたが、今は過剰品質でむしろ無駄な事をやっている、という評価に変わりつつあります。

品質はそこそこで、コストや価格をもっと強く抑えたモノが市場を制する(特に汎用量産品)、という世界的な潮流に日本のものづくりの生き残り戦略をどう見出していくのか、課題が浮き彫りになったとも言えるのではないでしょうか。 我々日本人はとかくあらゆる分野で、「極致」を極めようとする傾向が強く、それで「メイドインジャパン」というブランドを構築し世界から尊敬を勝ち得てきたわけですが、世界規模で潮流が劇的に変わりつつある昨今、それはむしろ足かせになってしまう可能性もあります。 一連の品質検査データ改ざんの件は、それらが起こった背景を改めて包括的に考える良い機会ではないかと思います。