インクジェットプリンターライブラリー

PE & PP プラスチックへの印字(コーディング)

はじめに

ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)は、ポリオレフィンと呼ばれるポリマー群の中で最も重要なものです。
ポリエチレン(PE)は世界で最も広く使用されているポリマーで、その使用量は年間約 8000万トンに及びます。一方、ポリプロピレン(PP)の使用量は年間約 5000 万トンです。
これらのポリマーは、食品パッケージ、自動車、医薬品、ケーブル、ワイヤー、パイプなどいくつもの業界で使用されています。 コーディング(やマーキング)に CIJ プリンターを使用する業界で広く使用されています。

これらのプラスチックに効果的なコーディング(とマーキング)を行う際に、ポリマーの特性が製造業にとって課題となることもあります。

ポリマーの特性

ポリエチレンとポリプロピレンは、炭素と水素のみを含む化学構造を持ちます。

ポリマーの一般的な構造

これらの構造により、極性の非常に低い素材となります。これは、他の化学物質(例:印字インクの化学物質)と接着することが困難であることを意味します。言い換えると、ポリマー表面に「何かを固着させること」が難しく、インクの固着不良が生じるということです。またインクドロップで表面が充分に濡れない場合があり、文字の可読性が低下したり、他の製品にインクが移ることがあります。

これらの問題は、熱、コロナ、プラズマなどの方法で PE や PP の表面を処理してある程度は克服できます。表面を処理した後の印字対象物の表面エネルギーは約 30mN/m から 40mN/m 以上に増えます。インクジェット用インクの表面張力(26~28mN/m)はこれより十分低いため、インクは良好な濡れと固着を達成できます。
しかし、生産ラインでは便利で適切な方法とは言えません(表面処理のプロセスが増えるため)。このため、印字インクのメーカーでは、処理済みおよび未処理の両方の PE と PP に固着するインクを開発する必要があります。

用途

PE / PP の用途が広いのは、製造中の取扱いが簡単なので、ブロー成形、射出成形、回転成形、押出成形のようなプロセスによって薄膜から部品まで幅広い成形ができるためです。

PE はフィルムなどの食品パッケージ用途に加え、ボトル、パイプ、ケーブル被膜のような食品以外の用途でも広く使用されています。 PE や他のポリオレフィンは、PVC に代わってケーブル用途でますます使用されるようになっています。
PP も、容器(箱、バケツ、CD/ DVD ボックス等)、自動車部品、パイプ、繊維、食品パッケージ用のフィルム、ボトル、キャップなど、複数の業界で広く使用されています。

食品パッケージ用の PE と PP

食品パッケージでは、各種の特性を正しく併せ持つことが重要です。PE と PP は両方とも、以下の機能を果たす特性を持ちます。

  • 多様なパッケージ形態に加工しやすい
  • 食品の鮮度を保つ(空気、湿気に対するバリア性)
  • 軽量、強度、食品保護性
  • 利便性 - 開けやすく軽量である
  • 酸や他の化学物質に対する耐性
  • 食品に移る可能性のある固有汚染物質が少ない
  • 費用対効果

ケーブル用 PE

PE ケーブルのコーディング(印字)では、ケーブルがリールに巻かれる際に、コーディング(印字)がケーブルの一部から他の部分に裏移りしてしまうという潜在的な問題があります。

インクが効果的に固着・乾燥しない場合、特に高速のケーブル巻き取り用途では、コーディング(印字)が移ってしまうことがあります。 この結果、文字が判読不能になり、ケーブルは修復や廃棄処分の対象となり、メーカーに追加費用がかかる場合があります。

その他の考慮事項として、文字をケーブルの色に対して目立たせるために、黒、白、その他の色の選択がケーブルメーカーにとって重要になる場合があります。
さらに、製造中や最終使用時に文字が化学物質に対する耐性を保つ必要性、印字インクに含まれる特定の化学物質の使用に影響を与える規制要因などによって、適切なインクを選択するプロセスが複雑化します。

PP と PE の使用における要求やトレンド - コーディング(印字)について認識すべき事項

環境と規制の両方における無数の圧力により、コーディング(印字)やパッケージの用途で PP と PE が使用されるようになっています。
これらの要求は、製品やパッケージで使用されるプラスチックだけでなく、プラスチックにコーディング(印字)するために使用されるインクにも影響を与えます。また、インクを使用するプリンター内の素材に影響する規格もあります。

環境

一部のプラスチック(例:PVC やポリカーボネート)よりも優れた環境側面を有すると見られているポリオレフィンを使用する傾向が強まっています。

ポリオレフィンの製造、使用、製品寿命後の過程で発生する有害化学物質は一般的に少ないとされています。PE と PP は容易にリサイクルが可能です。熱可塑性材料であるため、何回でも溶融でき、新製品に再生することができます。

ポリマーの一般的な構造

分解性を加速する添加物が利用できるようになってきていますが、PE と PP のいずれも生分解性は低くなっています(これは、一般的に使用されるすべてのプラスチックの問題です)。
再生可能な原材料(非石油ベース)から、PE と PP を製造する方法が開発されていますが、まだ一般化するほど費用対効果が高くありません。

規制/規格

プラスチック、コーディング(印字)インク、さらにそれらを使うマシンにも影響を与える、各種の規格や指令も考慮する必要があります。

食品パッケージ

食品パッケージ用途におけるコーディング(やマーキング)に使用されるインクの材料として特定の化学物質の使用を制限するいくつかの規制やガイドラインが存在します。
これには、食品に接触する素材に関する EU 規則 1935/2004 等があります。

  • 食品に接触する素材に関する EU 規則 1935/2004
  • 食品パッケージ業界で広く受け入れられているスイス条例 SR 817.023.21
    - これには、食品パッケージ用のインクに使用できる物質のポジティブリストが含まれます。
  • EuPIA 除外ポリシー - 印字インクから除外すべき物質を定義しています。

重金属

コーディング(およびマーキング)での使用を定める次のような規制があります。

  • EU 包装指令 94/62/EC
  • EU RoHS 指令 2011/65/EU
    - コーディング(やマーキング)装置などの電気・電子機器における特定有害物質の使用を制限します。

エレクトロニクス業界規格

エレクトロニクス業界におけるコーディング(印字)に使用されるインク、並びにケーブルなど、コーディング(印字)の対象となる素材に関する規格です。

  • ハロゲンフリー電子部品向けの IEC 61249-2-21 規格
    - 火災が発生すると、ハロゲン含有プラスチック材料は、塩化水素などの有毒な腐食性のガスを放出します。また水と接触すると塩酸を形成します。
    低煙ゼロハロゲン(LSZH)とも呼ばれるハロゲンフリーケーブルは、燃焼時に排出される有毒な腐食性のガスの量を低減させるので、航空機、鉄道台車の他、地下トンネルシステムを通るトラック信号線など換気のよくない場所で使用できます。
    IEC 規格では、900ppm 以下の臭素や塩素を含む場合をハロゲンフリーと定義しています。
    PVC ケーブルはこの規格には準拠しませんが、PE、PP および他のポリオレフィンは準拠します。コーディング(印字)インクも、この規格に準拠する必要があります。

コーディング(およびマーキング)に波及する影響

このような理由から、食品パッケージやケーブル業界の用途で PE と PP の人気がますます高まっています。
しかしその化学的構成から、インクジェットプリンターを使用するコーディング(印字)が難しい場合もあります。文字が正しく固着しなかったり、文字が移って判読できなくなることもあるためです。
これは、インクでのコーディング(印字)が PE と PP に適さないというわけではなく、むしろ適していると言えます。

PE と PP は、ほぼどのような形状にも成形できるため、連続インクジェット(CIJ)のような非接触コーディング技術が理想的です。
この技術では、インクが文字通りワーク表面に「噴出」されます。不規則な形状の製品に、どの角度からでもはっきりとコーディングできます。

CIJ プリンターメーカーの大半は、PE と PP を含む多くの素材に固着する幅広いインクを提供しています。
各素材とも、独自の特性セットを持っています。文字が所定位置に正しく固着するインクを開発し、同時にインク配合物に関するいくつもの環境・規制要件を満たすのは、化学者の技能にかかっています。

こうした指令にさらに適合できるような新素材を開発することで、各メーカーは一歩先を行くための新しいインクの開発を継続的に行っています。

おわりに

記:リチャード・マースデン博士 –Linx Printing Technologies Ltd 主任化学者

リチャード・マースデン博士は、英国リーズ大学で色彩化学の学位および博士号を取得後、カナダのマクマスター大学、および英国ハル大学において有機合成化学のポストドクトラルフェローを勤めました。

1990 年に Linx Printing Technologies に入社する前は、Elmjet 社でバイナリシステム用 CIJ 用インクの開発に関わっていました。公認化学者で、王立化学協会のメンバーでもあります。

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